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2011年 10月 13日
「盲目の 女 視線を失う5」
女性 29歳 その日の ゆうげ ワタリがに を 食べた 殻をわり 砕き 甘い身をすする その音だけが 錆びてメッキのハゲ落ちた音叉を 床に落としてしまった時のような 濁った反響となって 狭いダイニングを満たしていた 唐突に 離婚のことを切りだした タイミングを計っていたというわけではない ごく 自然に ひとりでに 言葉が出てきた 別れてほしい あなたのせいではない 原因は 私に ある と それしか言うことができなかった 理由そのものを 私自身が ちゃんと理解してはいない ひどい話だ 私は離婚を強く望んでいる ひとりに 戻りたいと考えている 相手に落ち度はない 駄目なのは 私の方だ 誰かと暮らして ゆける と 思っていたのに それができない人間なのだと思いしらされている 話し合いは それなりに長い時間 続いた と 思う それは まるで新たに開発された画期的なプリンターか何かの説明会のような雰囲気さえ漂っていた 夫は いつもの ように 冷静に 私の主張に耳を傾け しばらく黙りこんで考え それがまとまった後に 様々な質問を ゆっくり 静かに 投げかけた その問いに私は ええ とか いいえ という程度の言葉でしかこたえることができなかった 本当は 違うことを考えていた 記憶を掘り起こし ガラクタを取り出してきては それらを眺めなおしていた 子供が 欲しいと夫が言った 去年の春のことだ 結婚してから 5年が過ぎようとしていた 男の子がいいとか 女の子が かわいいとか いつになく無邪気に話す彼の よそ目をはばかりながら 私は事態をうまく飲み込めずに 困惑していた 子供を もつ 妊娠して 出産して 育てる それが 何を意味するのか まるで 宇宙飛行士 にでもなれと言われているような 気がした そして その時も 記憶を 掘り返していた 母は 肺を患い 長い間 病院暮らしをしていた 病気が病気だったので 母の顔を見る機会はなかった 私が 6歳になる頃の秋 やっとのことで治療が終わり 退院する日 父と兄と私の 三人で母を迎えに行った ところが病室はもぬけの殻 だった 後でわかったことだが 母親は 前日に退院してしまっていたのだ そして 入院中に知り合った 患者だった男と ともに行くへを眩ましたのだ 父と兄の悲嘆ぶりに比べれば 私は たいしたダメージを受けてはいなかった うつる からと 生まれてから一度も逢わせてもらえなかった 写真以外 肉眼で母親の姿を視界に収めたことはなかった だから母を慕う気持ち など持ちようは なかった ただ それから 私は 上手く様々な事柄を受け入れることが 苦手なまま 大きくなった 自分が ヒト という生き物で 女で やがて 誰かと結婚し 子供を産み 家庭を築き そして次の世代にそれなりの何事かを引き継ぎ それから 死ぬ そんな ごく普通のことが 頭でわかっていても 受け入れて理解することが 上手くできないのだ だから 子供を と言われても 私には ピン と くるものがなかった YES とも NO とも こたえられなかった
by urahitsuji
| 2011-10-13 04:34
| ひとびと その 内緒話
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